ひとんげの餅

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久しぶりにけせんだんごが食べたくなり、実家から最寄りの和菓子屋へ行った。幼い頃よく叔母に連れられて来ていたお店。びっくりするくらい良心的な価格で美味しいけせんだんごと、大の甘党だった祖母のお供え用に酒饅頭やかるかんを確保し、せっかくだからその叔母にもなにか差し入れをしようと店内を物色していると「いこもち」というのが目に入った。

 


いこもち?いももちじゃなくて?と一瞬よぎるも、鹿児島のことを知らなさすぎる鹿児島人としての自覚があるだけに自信がない。客は私だけ。お店の奥様がにこやかに接してくれることをいいことに「いこもちって何ですか?」とたずねると「鹿児島の郷土菓子ですよ。ほら、いこもち粉を使った...。あ、鹿児島の方じゃないんですかね?」と返される。そうなりますよね。思いっきり鹿児島弁で喋っているけど、もう言えない。実家が近所で小さい時よく来てましたなんて絶対言えない。中途半端な笑みを浮かべ、不勉強でお恥ずかしい限りですなどとごまかして、一つ頂いていきますと手に取り、あら、この重量感と質感は、と思ったときには「これ、ひとんげの餅じゃないですか?」と言ってしまっていた。

 


ひとんげとは鹿児島弁で上棟式のこと。私の認識では、高い所から一斉に撒かれる祝い餅やお菓子や和紙に包まれたお金などの家主からの振舞いを頂戴しに集まった周辺住民が争奪戦を繰り広げるイベント。子供の頃参加してはガチな大人達の洗礼を受けてたじろいだ記憶があるが、考えてみればこれも地域によって個性がありそうだ。私がそれ専用の餅だと思い込んでいたいこもちは、煎った米の粉(いこもち粉)で作った鹿児島の祝い菓子のひとつだそう。ひとんげのは丸餅で色は紅白二種が主流だが、普段用は形も色味も自由らしい。

 


無知を恥じる気持ちよりまたひとつ知らない鹿児島を知れた嬉しさが勝ってしまい、各手土産やお供え用にも一つずついこもちを追加した。叔母の家で淹れてもらった緑茶と一緒に食べながら、こんな味だったけ?と思ってしまったのは、戦利品にありつけた記憶のない私からしたら当然なのかもしれない。縁起物なんだねーと言いながらほおばる私に、叔母が心配そうな表情で「ほんとにこれを知らなかったの?」と確認してくる。ひとんげの餅を普段も食べられるとは知らなかったと答えると、今度は叔母が中途半端な笑みを浮かべていた。

 

桃太郎屋
鹿児島県肝属郡東串良町池之原87

 

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これは、けせんだんご


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けせんこと、シナモンの葉


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