嫁と姑の恋バナ論争

 

 

    町のちいさな喫茶店カフェ・シェスタがランチや定食を辞め喫茶だけになってから10年、スティックチーズケーキとドレッシングの通販とテイクアウト専門店になってから6年ほど経つ。それまで、ここのゴマだれとんかつが大好きだった私にとって、チーズケーキはあくまでもついでの存在でたいした思い入れもなかったから、当時はとんかつや日替わり定食が食べられくなったことへのショックの方が大きかったのだと思う。

    女性二人で切り盛りしている店。娘さんらしき調理担当者はとにかく手際が良くて仕事が速い江戸っ子みたいな人(江戸っ子の知り合いがいないからイメージです)。お母さんらしき方はおっとりした雰囲気で配膳と接客をする癒し系。ずっと親子かと思っていたが、彼女たちは嫁姑の関係らしく「仲悪いのよ!」と冗談ばかり言って笑い合う。こんなに仲良しな義理の親子も珍しいと思い、ほんとに喧嘩したりするんですか?と興味本位で訊ねたことがあり「あるある」と食い気味に返答されたが、その喧嘩の内容が未婚の私にはなかなか高度だった。嫁「うちの旦那は本当に優しくていい男」姑「悪いけどうちの旦那の方がいい男よ」「ちょっと待ってん、うちの旦那はあなたの息子でもあるわけだよ?そこは譲って良くないけ?」「うんにゃ、そこは譲れないし、あんたが旦那さんを産んだのは私よ」。「もうさ、歯がゆいわけ!」とお嫁さんが力説してくれたが、なんだその二世代に渡る壮大な惚気は!と開いた口が塞がらなかった。二人とも今でも旦那さんに恋をしてときめいているのだそう。未知だ。未知すぎる。

    客としてはもうそれを食べるしかなくなったからなのか、作る側のエネルギーが一点集中しているからなのか、肝心なチーズケーキは爽やかで甘酸っぱくてとても美味しい。研究や試行錯誤や緻密な計算を重ねてこの味に落ち着いたのだという。冷凍したものをテイクアウトすることができるので、我が家にストックがあるときはそれを日々のご褒美として食べることにしている。一本ずつ解凍してちびちび食べながら思い出すのは、頬を赤らめながらそれぞれの恋バナ(旦那さんの話)に興じるチャーミングな二人の顔。甘酸っぱい初恋の味とでもたとえるべきか。この味は、添加物不使用とかそんな次元の話ではない気がしている。

 

カフェ  シェスタ

鹿児島県肝属郡肝付町新富117-2